エスペラントが中立だと自称していること

エスペラントが中立だと自称していることについて、あまりピンとこないでいましたが。

二つ、三つ。

日本語―その1

何の本で読んだか、すっかり忘れたが、アジア諸国へのおもしろ紀行文だったと思うのだが。(引用ではありません)

その老人は、親日派らしく、ニコニコしながら食べ物やなんかをオレに勧めてくれた。オレもすっかりいい気になって持ってきたタバコをあげたり、写真をとってやったりした。
その集落を去るときになって、彼は村はずれまでみんなと一緒に送ってくれた。
最後に彼は手を振って幾分涙ぐんで、オレに向かって叫んだ。
「バカヤローっ」
「?」
……
振り返ると直立不動でまたも「バカヤロー」と叫んでいた。

つまり、かの老人は、かつてこの奥地に進駐してきた日本軍の士官が現地人を罵倒しているコトバを友好のあいさつだと思い込んでいたというわけ。


日本語―その2、フランス語

これは引用。1968年の話(吉田恒昭さん「わが青春の旅 インドシナ旅行印象記」より)

 バンコックの中国人街では、数人の中国人に食事中に囲まれました。20数年前に覚えた日本軍隊の言葉を口々に唱え出しました。「バカヤロー」、「オマエ」、「ビンタスル」と彼らの口から出る言葉は、僕の胸に痛切に響きます。憲兵という言葉も知っていました。彼らはアルコールが入っており、僕にはいささか険悪な空気に思えました。
……

http://www.toshima.ne.jp/~profty/Japanese%20Version%20Journey%20to%20SE%20Asia%20in%20my%20Youth.htm

 ビエンチャンでは……日本語を習っているラオスの青年に会いました。……我々二人の座にフランスの婦人が加わり、云いたい放題の議論が始まりました。
 「フランスは日本軍が来ると戦いもせず逃げて行った。それ以前フランスは何と云ってたか知ってるかい?フランス人はラオス人にこう云ったんだ『もし日本軍が侵略して来たら、我々フランスはラオス人民を守る為に戦う。だから今のところラオス人は武器を持ってはならない』とね。逃げて行ったフランスはアメリカのお陰でやっと戦争に勝つと再びラオスに戻って来て植民地にしたんだ。そしてフランス人のやる事といったら、極く一部の金持の息子連中をフランスへ留学させる。彼らはラオスに帰って来ると机に座ってフランスの指示に従って人形の様になってしまい、自分がラオス人である事を忘れて、貧乏なラオス人をこき使うんだ。この国で働いているフランス人は腰に手をあててブラブラ歩くだけだ。……」と長々とそのフランスの婦人に向って云い出しました。
 さて、その婦人は偉大な祖国をケナされて黙っているはずがありません。……僕にはフランス語など皆目判りません。再三、僕が英語でしゃべる様に婦人に促すのですが、その時だけは少しばかり英語をするだけですぐフランス語になってしまいます。……2人のアジアの青年は俄然フランス帝国主義をののしりはじめます。果たして、婦人はこの議論に降参してしまいました。それから文明とか宗教の話題になりましたが、フランス婦人に云わせれば、アジアが貧困なのは仏教があることと、人種がより猿に近いからだと進化論まで飛び出しました。

http://www.toshima.ne.jp/~profty/Japanese%20Version%20Journey%20to%20SE%20Asia%20in%20my%20Youth.htm

(「このホームページの内容を転載する際には、必ずこの出典元を明記してください」とのこと。メールアドレスがわからなかったので、連絡しませんが、不都合あればコメント欄等にてお知らせください。)

英語

そしてこれは作文。母国語が英語の人と、そうでないある人との会話。

  • 英語がお上手ですね。
  • もちろんです。何と言ったって、あなたの国は私の国を長い間植民地として支配していましたからね。英語と農業のモノ・カルチャーはすっかり定着しましたよ。私の父も、おじいさんも独立運動の闘士で、投獄されたり拷問されたり散々な目にあいましたがね。
  • それは、私個人の責任ではないとは言え、心苦しい限りです。
  • ええ、あなたを責めているわけではありません。
  • それにしても、独立後ずいぶん経っているわけですから、英語を強制するような教育制度がなくなったのもかなり昔の話だ。あなたはそうとう英語を勉強されましたね。
  • 勉強はしましたが、「そうとう」というわけでもありません。むしろ自国のコトバのほうが曖昧で難しいくらいです。私の国の言葉には「コンピュータ」はおろか「ハンバーガー」すらないのですからね。
  • それは仕方のないことでしょう?
  • そうです。ですから伝統的なコトバは全く無価値です。商売も学問も就職も英語ができないと……。ですから、都市部では英語を話す人が多いのですよ。お国コトバを喋ると田舎者だと笑われます。まるでイナカ族みたいだってね。ですから、英語をしゃべるのは当たり前なのです。あなたの国のおかげです。
  • イナカ族って?
  • ああ、彼らは奥地に住んでいて、まだ未開な生活を送っているのですよ。もっとも最近は、かなりの部分が僕らトカイ族の経営する農場や工場で働くようになっていますけれどね。

向後千春さんのKogoLab Research & Reviewの「津田幸男『英語支配とことばの平等』」(2006-10-26)も参照


そういうわけで、エスペラントは歴史的には「中立」だと自称する資格があるというわけでしょう。確かに「英語」や「フランス語」は言語としては「中立」の椅子に座ることはできなさそうですね。