冤罪 / Misakuzo --- Jugxisto absolvis la virinon post 12 jara prizonado

湖東記念病院人工呼吸器事件

 2003年5月22日、滋賀県の湖東記念病院に入院していた植物状態の男性患者(当時72歳)が死亡した。
 2人の看護師とともに任意聴取された西山さんは事件から1年以上経過した翌年7月、「職場での待遇への不満から、呼吸器のチューブをはずした」と自白して逮捕された。
 目撃者はなく「証拠」は自白のみ。西山さんは無罪を主張したが、大津地裁は懲役12年の実刑判決を言い渡し、最高裁で刑が確定した。
 獄中から冤罪を訴え続け、2度目の再審請求でようやく、大阪高裁の後藤眞理子裁判長が「警察官などから誘導があり、迎合して供述した可能性がある」と裁判のやり直しを命じた。2020年3月大津地裁は自白の任意性を否定し、無罪判決を下した。
 やり直しにあたっては新たに見つかった(2019年11月)証拠も採用された。見つかったのは捜査報告書で、「チューブのたん詰まりにより、酸素供給低下状態で心臓停止したことも十分考えられる」と医師の所見が書かれており、他殺か事故かを断定できない内容であった。報告書の作成日は、西山さんが逮捕される4カ月も前であった。

無罪判決を言い渡した大西直樹裁判長の説諭

西山さんは虚偽供述を後悔し、気に病んでいるかもしれません。それが有罪になったきっかけになったかもしれません。嘘をついたことが非難されるべきではなく、嘘をついたことで有罪になったと言うべきではない。間われるべきは捜査手続きの在り方です。西山さんの自白は唐突に飛び出した。警察宮はそのことに疑問を差しはさむべきでした。Y刑事は、迎合的な態度や好意に気づいていたのだからなおのこと慎重の上にも慎重を重ねて検討すべきでした。まずは西山さんに自由に供述させるべきでした。しかし、現実には捜査資料に沿った供述を求めた。弁護人との信頼関係も破壊した。否認しても調書にされず、一方で大量の自白調書が積み重ねられました、自白調書に署名指印があったとしても、その外形のみで自発性を肯定することはできません。警察官からは西山さんから真実を引き出そうとする姿勢がうかがわれない。供述書は西山さんが述べたものだが、そのような外形的事実から自発性を認めることはできない。西(解剖医)鑑定そのものに、不整脈を起こしうるとか、たんが多量にあるとかの記載がありながら、その点について十分な検討がなされていません。検討されていれば、そもそも起訴されなかった可能姓があります。


本件再審公判のなかで、15年の歳月を経て、初めて開示された証拠が多数あります。そのうち一つでも適切に開示されていれば、本件は起訴されませんでした。


西山さんは、殺人事件で有罪となり服役し、今日に至るまで15年以上の月日が経ちましたが、殺人事件の被告人との立場から逃れることはありませんでした。ご家族もつらい思いをしてきたことでしょう。時間を巻き戻すことはできませんが、未来を変えることはできます。


また、本件は刑事司法全体に大きな間題提起をしました。平成11(2009)年に裁判員裁判が実施されましたが、刑事司法はまだまだ改善の余地があります。警察、検察、弁護人、裁判宮、すべての関係者が、今回の事件を人ごとに考えず、自分のこととして考え、改善に結びつけなければなりません。西山さんの15年を無駄にしてはなりません。西山さんの問題がよりよい刑事司法を実現する原動力となる可能性があります。


他方Tさん(死亡患者)の家族が、看護助手に殺されたと認識したことで、長きにわたって苦しんだことも看過できません。第二の西山さんをつくってはならないのと同様に、第二のTさんのご家族の悲しみ苦しみをっくってはなりません。


私自身も、自分自身の裁判官生活を振り返り、改めて考えさせられました。西山さんの最終意見陳述に衝撃を受けました。西山さんは、「冤罪に苦しんでいる被告人、1人1人の声に耳を傾けてほしい」と言いました。それはあまりにもあたりまえのことだったからです。私もそうしてきたつもりでしたが、改めて声を聞く重要性を感じました。捜査段階の自白があっても、それに視界を曇らせることなく「疑わしきは被告人の利益に」の原則に忠実に、判断すべきことを再認識しました。


再審は最後の手段です。しかし、再審に至る前に適切な判断がなされることがより重要です。再審の必要がないようにしなければなりません。特に第一審で、私も一審を担当する裁判官の一人として、責任の重さをかみしめています。今後も適切な役割をはたしていきたい。


最後に、この15年余り、西山さんはさぞつらかったろうと思います。でも、そのなかで虚偽いつわりのない西山さんを支えてくれる人と出会いました。ご家族、弁護人、獄友は大切な財産です。西山さんにもう嘘は必要ありません。等身大の自分と向き合い、自分自身を大切に生きていってもらいたい。今日がその一歩なるよう願い、信じています。


(終わり近くなると、裁判長は涙声になり何度もティッシュペーパーで涙を拭っていた)

(救援新聞京都版2020.4.15より)


判決はこちら(平成24(た)3  殺人被告事件 令和2年3月31日  大津地方裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/471/089471_hanrei.pdf