無産社編集部編『何から読むべきか』(1930年)は階級闘争のための理論武装の必要性を労働者に説き、まさに何を買って読めばいいかという文献リストを提供するものである(全約50頁)。
目次は以下の通りで、弁証法的唯物論や史的唯物論、経済学、階級闘争などの文字はないが、語学の部分だけ細かいのが面白い。
(一)知識は力である
(二)読書法
(三)時間の利用法
(四)資本論の読み方
(五)語学の研究法
エスペラント語
ドイツ語
ロシア語
英語
仏蘭西語
(六)何から読むべきか
この「(五)語学の研究法」に何と書いてあるか、かいつまんで紹介してみる。ただし、そもそもなぜ日本語以外のヨーロッパの言語を学ばねばならないのかは、エスペラント以外については何も書いていない。外国語が必須の学生を対象としているのか、編者のインテリ気質が根底にあるからなのか。もともと階級闘争とかマルクス主義というのは、土着の思想ではなく、インテリによって輸入されたものなので、外国語は学ばれて当然という共通認識が編者の周辺にあったのかも知れない。
「エス語の研究の為に」
マルクスが「万国のプロレタリア団結せよ」と書いているが、これまで言語の相違や階級闘争が盛り上がっていないなどの事情で、このことへの取り組みが弱かった。
「我々は今や総てのエネルギーを発揮して、全プロレタリヤの文化と解放への道のために国際語エスペラントを学ばなければならない」。
ソ連政府もエスペラント普及のために補助金を出しているし、独仏の共済等の機関紙やその他の国際機関もエスペラントの対訳を掲出している。欧米ではエスペラントがブルジョア反動教育語として利用されているのであるから、この分野での闘争が重要である。
テキストとしては、日本エスペラント学会から出されたものなどが推奨されている。入門後は、イソップ物語、グリム、アンデルセンなどの易しそうな文学作品、スタマトフ「心の片隅」、ヘンルィク・シェンキェヴィチ「燈台守」の後に、いきなりレーニンの「マルクス主義の三源泉と三構成要素」が掲げられている。
「獨語の研究の為に」
マルクスがドイツ人だからとか、資本論がそもそもドイツ語だからとかなどは、一切書いていない。ドイツ語は難しいが「ヨーロッパ語の内でドイツ語は最も文法の完全な語である。だから此処迄来た諸君が、更に一段の努力をするならば資本論の読破も強ち不可能とは云へない」などとドイツ語崇拝の雰囲気もある。
「ロシア語の研究の為に」
「凡ての欧羅巴語のうちでロシア語程難解であるといはれたものはない」という書き出し。堺利彦も獄中で学習し始めたが難しすぎて放棄したほどだ、という。独学では無理。ロシア語の本もない。だが、ロシア革命があったのだから、かの地での新事件や新施設など知らないわけには行かない。
「英語の研究の為に」
地球規模の帝国主義を背景に持って、外国語といえば英語ということになっており、学校でも教えられている。「然らば、か程までに普及されている英語はその学習において容易であり、直ちに熟達するものであるかと云ふに、恐らく是位厄介なものはなく、やってもやっても一向ヤマの見えないものも亦少ないであらう」。だが学習環境は整っている。
読めるようになったらブハーリンの「ABC of communism」を読め。
英語学習の最大難関は単語の記憶である。棒暗記は意味がなく努力の割には役に立たない。小辞典を持ち歩いて、事物を英語でなんというか置き換えながら考えろ。
「フランス語の研究の為に」
ほとんど入門書や辞書の紹介のみ。
何から読むべきか
語学学習の項が終わると、あとは対象者別・テーマ別の文献目録で解説はなにもない。対象者としては「労働者は何から読むべきか」を筆頭に農民、無産婦人、小商人、知識階級と編集されている。この文献目録にエスペラント関連のものは一つもない。