相関詞国―九神の国9

だが、どうやってこの話を私が知りえたか、君は興味がないかね?
カルロ:ええ、知りたいです。
先生:つまりだ。私が地上の全ての人たちにエスペラントを教えるために、「世界エスペラント化教材」での授業の準備をしていたときなんだが、途中まで何もかも上手くいっていたのに、あるとき急に大きな壁にぶち当たってしまったんだ。どうやってもそれを突破できない。この壁をどうやってぶち破るか、何日も昼夜と無く必死に考えたが、だめで、ちっともうまく行かなかった。
 その「壁」というのは、カルロ、こんなことなんだ。
 エスペラントには「相関詞」という単語群が45もあるんだ。これらの45個の単語は、何らかの関係性や、多かれ少なかれ同じ音を有するために、習得するのが大変困難なのである。さて、私は初心者に相関詞の単語をちゃんと習得できるよう、より簡単にそれができるようなやり方を発見しなければならなかっただけでなく、世界中の全ての人たちに、45個の単語を説明することもできるような方法も思いつかねばならなかったのだ。
 たとえば、「テーブル」なんていう単語をいろんな言葉の人に説明するのは、全く簡単だ。テーブルの絵を描いて、その下に「TABLO」って書いておけば良いのだ。どんな国のどんな人もテーブルが何かすぐに理解するだろう。しかし、45個の単語、どうか、どんなに そんなに、どんなでも、あるもの、何か、それ、すべてとかその他の単語って、これは〔テーブルなんて単語とは〕別だ。それで、わたしは考えて考えて、そしてまた考えた。そしてある晩、机に向かったまま疲れて寝てしまったんだ。そしたらな、カルロ、私は眠っている間夢を見たんだ。夢の中で、その言語、エスペラント創始者であるザメンホフ博士が私のところへやってきて言ったんだ。
「あんたはベンソン博士かね?」
わたしは答える。
「はい、ザメンホフ先生。私は机の前にある先生の肖像画で先生を存じ上げております。」
そしたら、ザメンホフ博士はこうおっしゃったのだ。
「わしは相関詞の由来の秘密について、あんたに教えてやろうと思って来たのじゃ。あんたが喜ぶと思ってな」。
私は大喜びで返事をしたさ。先生はすぐに座って教え始めた。
 「わしがエスペラントの言葉を作ったときに、わしはあんたが相関詞で突き当たったのと同じ困難に遭遇しておった。来る日も来る日も、わしは仕組みや適当な単語を発見するため頭を悩ませておった。しかし、どんなに努力したりや試みたりしてもぜんぜん成功しなかったのじゃ。ある朝、誰からも邪魔されずに考えるために、ひとりになろうと、私は町の裏手に長い散歩に出かけたのじゃ。わしは町の周りにある大きな山を越えて行き、草深い原っぱにねっころがった。歩き続けたのですっかり疲れてしもうたのだ。そこでふとわしゃ大きな岩の一部に引っかいて描かれた形か象形文字、わしにはそう思えたんじゃが、それが見えたのじゃ。わしゃ興味を覚えて、すぐその石を掘り出し始めたんじゃよ。まっこと大変な作業じゃった。何しろ道具を持っておらんでな、ポケットナイフを使うしかなかったな。じゃが、うんざりするような作業のあと、とうとう全部掘り出したのじゃ。そこに書いてある物語を読みきって、わしゃうれしくて幸せでこどものように跳びあがったぞよ。その物語にはわしの相関詞の単語の完全な考えと仕組みとが書いてあったのじゃから。さて、あんたは今同じ困難に直面しておるから、あんたにその石を持ってきてあげたぞ。これじゃ」。
 こう語ると、親切な博士は私の机の上に、書き込まれた石を置いて、ご自身は消えてしまわれた。お礼を言う間もなかった。その象形文字の解読は大変骨の折れる仕事だったが、とうとう私は成功したのだ。だが、それは夢の中の話だって分かってるからな、わたしは夢の中で私はその話を全部ノートに書きとめたんだ。その話は今君にソーカンシ国の話として話して聞かせたやつと同じなんだ。〔夢から覚めて書いたんじゃなくて、夢の間に書いたと、述べている。〕
 さーて、カルロ、君はきっと疑問に思うだろう。いったいどうやってその物語が、45個もの相関詞の単語を学ぶのを簡単にしたっていうのかってね。そうじゃないかい? それはね……
 まず、君はかわいそうなオメーレがエサウへの愛で死んだ話を忘れはしないだろう。あの文章だ。「エサウへの愛でオメーレ」は死んだ。これが君の九人の神様たちの名前を含んでいる。そしてイラストが九人の神様たちの名前の意味を説明しているね。つまり、「アム」が時間、「オー」がものや対象、「アル」が原因や理由、動機、「エス」が所有、「アー」が質、「ウー」が人格、個人、「オム」が量、「エル」が手段や方法、「エー」が場所や空間を意味している。
 二番目に、同じく五人の鼻が変な子どもたちについても同じく君はずっと覚えているね。相関詞国の王様に生まれてきた子どもたちだ。
カルロ:先生、すみません。ぼく、子どもたちの名前なんて忘れてしまいました。その意味は覚えてるんですけどね。その子どもたちの変な鼻のおかげで。それから司祭長が説明した人間存在の五つの時期とかの話は覚えてるんです。
先生:子どもたちの名前を君は覚えてない、ってことだね別の言い方をすると。
カルロ:はい、先生。
先生:君はオメーレの父親の名前は覚えているかね?
カルロ:父親?……はい、彼の名はイキーティ、イー・キー・ティー、あれれぇ!
先生:そしてエサウのお母さんの名前は?
カルロ:エサウの母親ですか?……イチ……イチーニ……、いや、忘れました。
先生:チネーニじゃないかね?
カルロ:はい……はい、チネーニ……チ・ネニ。ほぉ、……イ・キ・ティ・チ・ネニ……これって五人の子どもたちの名前っすね。
先生:その通りだよ、カルロ君。だが、二度と忘れないように、次のことわざを憶えたまえ。「光を恐れる理想は決して成就しない イデオ、キウ・ティマス・ルモン、ネニアム・スクツェサス」。
このことわざは、五人の子どもたちの名前が含まれておるからな。イ・キ・ティ・チ・ネニ。
カルロ:イデオのイ、キウのキ、ティマスのティ、ルモンのチ、ルモンノチ、……光って単語にチはどう読むんですか?
先生:気がついたな、カルロ。しかし、光はどこから来るかな? 地面 テロ か、空 チエロ か?
カルロ:チエロです。まちがいなく。
先生:じゃあ、単に光って単語をやめて、換わりに空って単語にしようか。ほかの単語も変えてみよう。
「空を恐れる考えは、決して目標には到達しない」。(イでお・キう・ティます・チえろん・ネニあむ・あてぃんごす・つぇろん)
イキーティとチネーニというオメーレの父親、エサウの母親の名前は、あるいは「空を恐れる考えは目標に到達しない」という文は、君に五人の子どもたちの名前を教えてくれるというわけだ。変な鼻の子どもたちと、人間の五つの時期についての司祭長の説明は、五人の名前の意味を説明している。つまり、「イ」は不確定、「キ」は疑問、「ティ」は指示、「チ」は共通性、「ネニ」は無いこと。
 この名前と意味を憶えておけば、君は容易に45の相関詞を作ることが出来るんだよ。単に、九人の神様の名前の前に五人の子どもの名前を置けばよいのだよ。二つの名前は一緒になって45個の相関詞のどれかひとつとなるのだ。その意味は二つの名前を合体させたものなんだ。それは、次の通り。IAM, IO, IAL, IES, IA, IU, IOM, IEL, IE; KIAM, KIO, KIAL, KIES, KIA, KIU, KIOM, KIEL, KIE; TIAM, TIO, TIAL, TIES, TIA, TIU, TIOM, TIELE, TIE; CXIAM, CXIO, CXIAL, CXIES, CXIA, CXIU, CXIOM, CXIEL, CXIE; NENIAM, NENIO, NENIAL, NENIES, NENIA, NENIU, NENIOM, NENIEL, NENIE.