消費税負担か社会保障の貧困か

社会保障は国の責任だ。しかし、この法律はそうではなく、「自助」と「家庭と地域(国民)の助け合い」を基本にし、やむなく公的制度を用いる場合も財源は消費税、サービス内容は「効率化」などで貧困ということになっている。この方針でいくら「改革」を「推進」しても消費税が上がるか、保険料が上がるか、給付内容が量的にも質的にも規模としても貧弱になるかどれかしかありえない。
年金のミスをなくすのと、貧窮者を救うためということで、税や保険料を貫く「背番号」(社会保障番号)を国民につけるとのことだが、そうなると今でも高すぎる国保料が払えなくて困っている人や国保にすら加入できない人がたくさんいるというのに、こうした貧窮者に対する徴税や保険料徴収の取立てが厳しくなるだろう。熊本で車に「タイヤストッパー」をかけられた保険料滞納の一家が心中した事件も記憶に新しい。
法案末尾の附則も「いやらしい」。

社会保障制度改革推進法案要綱

第一総則
一目的
この法律は、近年の急速な少子高齢化の進展等による社会保障給付に要する費用の増大及び生産年齢人口の減少に伴い、社会保険料に係る国民の負担が増大するとともに、国及び地方公共団体の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化していること等に鑑み、所得税法等の一部を改正する法律(平成二十一年法律第十三号)附則第百四条の規定の趣旨を踏まえて安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るため、社会保障制度改革について、その基本的な考え方その他の基本となる事項を定めるとともに、社会保障制度改革国民会議を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とすること。(第一条関係)


二基本的な考え方
社会保障制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとすること。(第二条関係)
1 自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。
社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行い、税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現すること。
3 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすること。
4 国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点等から、社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること。


三国の責務
国は、二の基本的な考え方にのっとり、社会保障制度改革に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有すること。(第三条関係)


四改革の実施及び目標時期
政府は、第二の基本方針に基づき、社会保障制度改革を行うものとし、このために必要な法制上の措置については、この法律の施行後一年以内に、第三の一の社会保障制度改革国民会議における審議の結果等を踏まえて講ずるものとすること。(第四条関係)


第二社会保障制度改革の基本方針
公的年金制度
政府は、公的年金制度については、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとすること。(第五条関係)
1 今後の公的年金制度については、財政の現況及び見通し等を踏まえ、第三の一の社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。
年金記録の管理の不備に起因した様々な問題への対処及び社会保障番号制度の早期導入を行うこと。


医療保険制度
政府は、高齢化の進展、高度な医療の普及等による医療費の増大が見込まれる中で、健康保険法、国民健康保険法その他の法律に基づく医療保険制度(以下単に「医療保険制度」という。)に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとすること。(第六条関係)
1 健康の維持増進、疾病の予防及び早期発見等を積極的に促進するとともに、医療従事者、医療施設等の確保及び有効活用等を図ることにより、国民負担の増大を抑制しつつ必要な医療を確保すること。
医療保険制度については、財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等を図ること。
3 医療の在り方については、個人の尊厳が重んぜられ、患者の意思がより尊重されるよう必要な見直しを行い、特に人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備すること。
4 今後の高齢者医療制度については、状況等を踏まえ、必要に応じて、第三の一の社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。


介護保険制度
政府は、介護保険の保険給付の対象となる保健医療サービス及び福祉サービス(以下「介護サービス」という。)の範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るとともに、低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制しつつ必要な介護サービスを確保するものとすること。(第七条関係)


少子化対策
政府は、急速な少子高齢化の進展の下で、社会保障制度を持続させていくためには、社会保障制度の基盤を維持するための少子化対策を総合的かつ着実に実施していく必要があることに鑑み、単に子ども及び子どもの保護者に対する支援にとどまらず、就労、結婚、出産、育児等の各段階に応じた支援を幅広く行い、子育てに伴う喜びを実感できる社会を実現するため、待機児童に関する問題を解消するための即効性のある施策等の推進に向けて、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとすること。(第八条関係)


第三社会保障制度改革国民会議
社会保障制度改革国民会議の設置
平成二十四年二月十七日に閣議において決定された社会保障・税一体改革大綱その他既往の方針のみにかかわらず幅広い観点に立って、第一の二の基本的な考え方にのっとり、かつ、第二の基本方針に基づき社会保障制度改革を行うために必要な事項を審議するため、内閣に、社会保障制度改革国民会議(以下「国民会議」という。)を置くこと。(第九条関係)


二組織等
国民会議は委員二十人以内をもって組織すること、委員は優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が任命すること、委員は国会議員を兼ねることを妨げないこと、国民会議に事務局を置くこと等、国民会議の組織等に関し、必要な事項を定めること。
(第十条から第十二条まで、第十四条及び第十五条関係)


三設置期限
国民会議は、この法律の施行の日から一年を超えない範囲内において政令で定める日まで置かれるものとすること。(第十三条関係)


第四附則
一施行期日
この法律は、公布の日から施行すること。(附則第一条関係)


生活保護制度の見直し
政府は、生活保護制度に関し、次に掲げる措置その他必要な見直しを行うものとすること。
(附則第二条関係)
1 不正な手段により保護を受けた者等への厳格な対処、生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属する者の就労の促進その他の必要な見直しを早急に行うこと。
2 生活困窮者対策及び生活保護制度の見直しに総合的に取り組み、保護を受けている世帯に属する子どもが成人になった後に再び保護を受けることを余儀なくされることを防止するための支援の拡充を図るとともに、就労が困難でない者に関し、就労が困難な者とは別途の支援策の構築、正当な理由なく就労しない場合に厳格に対処する措置等を検討すること。

社会保障制度改革推進法案に反対する会長声明

 民主党自由民主党及び公明党が今国会で成立を図ることにつき合意した社会保障制度改革推進法案(以下「推進法案」という。)は、「安定した財源の確保」「受益と負担の均衡」「持続可能な社会保障制度」(1条)の名の下に、国の責任を、「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み」を通じた個人の自立の支援に矮小化するものであり(2条1号)、国による生存権保障及び社会保障制度の理念そのものを否定するに等しく、日本国憲法25条1項及び2項に抵触するおそれがある。
 すなわち、推進法案(2条3号)は、「年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料負担に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とする」として、年金・医療・介護の主たる財源を国民が負担する社会保険料に求め、国と地方の負担については補助的・限定的なものと位置付けており、大幅に公費負担の割合を低下させることが懸念される。
 また、推進法案(2条4号)は、社会保障給付に要する公費負担の費用は、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとするとしているが、財源の確保は、憲法13条、14条、25条、29条などから導かれる応能負担原則の下、所得再分配や資産課税の強化等の担税力のあるところからなされなければならない。
 さらに、推進法案(4条)は、新設する社会保障制度改革国民会議の審議を経て社会保障制度改革を具体化する立法措置を講じるものとしているが、社会保障制度改革をめぐる国民的議論は、全国民の代表である国会において、全ての政党・会派が参加し、審議の全過程を国民に公開すべきであり、内閣総理大臣が任命する僅か20名の委員による審議に委ねることは民主主義の観点から不適切である。
 最後に、推進法案(附則2条)は、「生活保護制度の見直し」として、不正受給者への厳格な対処、給付水準の適正化など、必要な見直しを実施するとしている。しかし、生活保護受給者の増加は不正受給者の増加によるものではなく、無年金・低年金の高齢者の増加と非正規雇用への置き換えにより不安定就労や低賃金労働が増大したことが主たる要因である。むしろ、本来生活保護が必要な方の2割程度しか生活保護が行き届いていないことこそ問題である。給付水準の見直しについては、最も低い所得階層の消費支出との比較により、保護基準を引き下げることになりかねず、個人の尊厳の観点からも是認できない。
 当連合会は、2011年の第54回人権擁護大会において、「希望社会の実現のため、社会保障のグランドデザイン策定を求める決議」を決議した。しかし、推進法案は、上記のとおり、社会保障制度の根本的改悪、削減を目指すものとなっており、当連合会の決議に真っ向から反する法案である。
 よって、当連合会は、今国会で推進法案を成立させることに強く反対するものである。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120625.html