西東なほみち(中垣虎児郎)「戦旗」(1930)と秋田雨雀「階級文化闘争の武器としてのエスペラント」(1931)

プロレタリア・エスペラント運動は、どのようにエスペラントを宣伝したのか。

戦旗

戦旗 1930年8月号に西東なほみちの名で掲載されている中垣虎児郎の「エスペラントとプロレタリア」から拾い、要約。

1.国際的な団結のために

 万国のプロレタリアは団結しなければならないが、直接会合するにしても新聞や通信を交換するにしても、インテリの翻訳に頼らざるを得ない。これを容易に解決できるのはエスペラントである。漢字も覚えなくて良い。

2.国語批判のために

 日本語を批判できなければ日本語によって伝えられる思想を批判することが難しい。だいたいプロレタリアは(学歴が小卒程度で漢字もちゃんと読めないように)日本語を十分に使いこなせていないし、その上「国語が完全にプルジョアジーの支配権の下にあるから」である。演説は中止を喰らうし、本や雑誌は◯◯や✕✕の伏せ字だらけではないか。
 また例えば「赤い思想で国が滅ぶ」というが、国と言っても sxtato、nacio、lando の別があるように、赤い思想で富士山と桜のランドがなくなるわけではない。日本語批判ができないとこうした支配階級や社会民主主義者のゴマカシやデマに乗せられてしまう。エスペラントのような合理的な言語を学び、欺瞞を見抜く力を養わねばならない。 

3.エスペラントの広がり

 世界で語学学習のために多くの時間と金とを費やすことのできないのは無産大衆だから、真にエスペラントを必要としているのは世界のプロレタリアである。プロレタリアが階級的国際統一戦線強化の武器として・国民的感情を超越した団結のためにエスペラントを実用すれば、エスペラントもその存在意義を全うできる

4.ソヴエート同盟では

 エスペラントはソ同盟の国民生活のあらゆる分野に浸透していっている。特にピオニール、通信事業従業員、労働者教育の分野で運動が盛んである。多くの重要な文書がエスペラントに訳されている(レーニンスターリン、ドレーゼン、マル等)。

5.日本では

 日本ではSATの会員はまだ60人くらい(財団法人日本エスペラント学会の会員は2000人以上)。「大杉栄を筆頭とするアナーキストエスペラント運動を外にしては、プロエス運動は最近芽を出したばかりだ」。

エスペラントの存在意義

秋田雨雀は「階級文化闘争の武器としてのエスペラント」で、エスペラントとホマラニスモでは戦争は防げないとして、次のように述べた。

 第一次世界大戦の勃発のため1941年第10回世界エスペラント大会(パリ)にザメンホフは参加できず、ワルシャワに逃げ帰らねばならなかった。戦争中にドイツは大戦の責任はドイツにあるのではないとエスペラントで発表した。

 此の事実は何を語るものであろうか。即ち人道主義者の無力を語るものであり、ホマラニスモ(人類人主義)を標榜するエスペランテストの死滅を語るものである。人類の希求する所の平和は決して人類人主義的な観念的活動によって得られるものでなく、⋯積極的なプロレタリアートの為の闘争を開始する事の外には得られないという事実を語るものである。

 こうしてエスペラント運動は、ブルジョアにもプロレタリアにも属しないと称しながら、その実帝国主義者のために働く小ブルジョア的中立エスペランティストと、プロレタリアートの勝利のためにエスペラントを武器に闘うプロレタリアエスペラント運動に二分されたのである。
(あとはSAT内の闘争について述べている)